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映像ディレクター・映画監督の信友直子さんによる、認知症の母・文子さんと老老介護をする父・良則さんの姿を描いたドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』は大ヒット作品に。そして母・文子さんとのお別れを描いた続編『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』の公開から2年半、104歳になった良則さんは、広島・呉でひとり暮らしを続けています。笑いと涙に満ちた信友家の物語から、人生を振り返るきっかけを得る人も多いはず。そこで、直子さんがその様子を綴った『あの世でも仲良う暮らそうや』から、一部抜粋してご紹介します。

母の意志

母の具合が一気に悪くなったのは、2020年の春でした。そして6月14日、91歳で永眠しました。コロナ禍が影響したのではないか……。私はそう思っています。

胃瘻を造ってまだ1年でした。胃瘻にすれば3年も4年も生きる人が多い中、なぜ1年で旅立ったのか。二通りの考え方ができるように思います。

ひとつは、母は自分の意志で、この時期を旅立ちに選んだのではないかという考え方。

2020年2月末に新型コロナウイルスが一気に蔓延(まんえん)し、それまで上映会や講演会で全国を飛び回っていた私も、すべての予定がキャンセルになりスケジュールは白紙に。ならば県またぎの移動が制限されないうちにと、実家のある広島県呉市に急ぎ帰ったのが、3月初めのことです。

すぐ病院に行き、母に現状を伝えました。

「あのね、お母さん。世界中で変な疫病(えきびょう)が流行ってきたんよ。じゃけん私、いったん東京を引き上げて呉に帰ってきたわ。これからはずっと呉におるけん、安心してね」