現在放送中のNHK大河ドラマ『光る君へ』。吉高由里子さん演じる主人公・紫式部が書き上げた『源氏物語』は、1000年以上にわたって人びとに愛されてきました。駒澤大学文学部の松井健児教授によると「『源氏物語』の登場人物の言葉に注目することで、紫式部がキャラクターの個性をいかに大切に、巧みに描き分けているかが実感できる」そうで――。そこで今回は、松井教授が源氏物語の原文から100の言葉を厳選した著書『美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』より一部抜粋し、物語の魅力に迫ります。
紫の上の乳母子の言葉
<巻名>葵
<原文>あだなることは、まだならは(わ)ぬものを
<現代語訳>浮気なんてことは、まだ知りませんのに
源氏とともに一夜を過ごした、ある朝のこと、紫の上はいっこうに起きてきません。源氏は紫の上の枕もとに、そっと手紙を置いていきます。
紫の上がその手紙の歌を読むと、そこには紫の上との結婚がようやく実現したことへの、満ち足りた気持ちが歌われていました。
源氏が22歳、紫の上が14歳ほどのことです。