ドライブイン探訪 

著◎橋本倫史
筑摩書房 1700円

「出たとこ勝負」の経営者たちが魅力的

いくつかの書店でひっそりと売られていた自費出版の個人誌『月刊ドライブイン』が一冊に。質の高い記録文学の書籍化を喜びたい。日本人はこうやって生きてきたんだという感慨で胸がいっぱいになる。

戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、自動車産業の隆盛とともに全国の道路が整備されていった。ドライブインは、日本人が初めて体験するドライブというレジャーに欠かせない休憩所だった。

取材されているのは、北海道から沖縄まで22ヵ所のドライブイン。マーケティングとは無縁の世界だ。経営する人たちはみんな「出たとこ勝負」な面があり、開店も気軽だし、メニューやサービスも時代の変化につれてどんどん変えていく。

道の駅全盛の現在、ドライブインは絶滅するのかなと思っていた。でも、自分たちが動けるうちはとがんばる夫婦や、息子の代に店を託した人の話を読むと、ドライブイン文化はまだ死んでいない、これはノスタルジーの話ではないと思う。

著者はまず、車で気になるドライブインを見て回る。ここと思う場所は電車やバスで再訪し、ビールなどを注文して店主と話す。後日、改めて取材を申し込む手紙を送る。返事をくれたら正式な取材だ。こうしておなじドライブインを3回は訪れるというていねいな仕事が、内容の濃いインタビューに結実している。聞き手を信頼できないと、ごく私的な生活史をこんなふうにリアルには語れまい。

ドライブイン文化を支えてきた人々の人生。波瀾万丈とも言えるが、ごくありふれた人生にも見える。あり得たかもしれない自分自身のもうひとつの人生を体験するように、かみしめながら読む。