介護のプロでもやらないこと(写真提供:Photo AC)

親を介護する際の課題は、「仕事」や「お金」だけだと思っていませんか?実は、もっとも大きな課題は「家族関係」なのです。親を思って介護サービス利用を勧めた結果けんかになったり、自分で介護しようと抱え込んでしまったり……。それまでうまくいっていた家族仲が、介護で険悪になってしまうことも少なくありません。親も子どもも無理せず幸せになれる「家族介護」はどうすればいいのか?外資コンサル会社から介護の世界へ。そして3000件以上の介護相談に乗ってきた川内潤さんの著書『親の介護の「やってはいけない」』より、一部を抜粋して紹介します。

介護のプロでも、家族の介護は「やってはいけない」

私たち介護の専門職が介護に関わるとき、大切しなければならない基本的な姿勢の一つに、「クールヘッド、ウォームハート」というものがあります。

温かい心で高齢者の気持ちに寄り添うことは大事だけれど、頭のなかは常に冷静でなければならない、という意味です。

たとえば「お腹が痛い」と訴えている高齢の方がいらっしゃった場合、私たちは「痛いですか?それはどんな痛みですか?」と気遣いながら、その方の表情を冷静に観察します。

そして、それが病気による痛みなのか、そうではなくて感情からくるものなのか、それとも別に言いたいことがあるのかを探っていきます。

でも、私が自分の母親に介護が必要な状態になったとき、「クールヘッド、ウォームハート」でいられるかというと無理です。

冷静になって、「母親のお腹の痛みは、そのうちのどれかな?」なんて観察する余裕はないでしょう。

介護のプロでも家族の介護をやってはいけないと言われる理由は、そこにあります。なぜ、私は自分の母親に対して「クールヘッド、ウォームハート」でいられないのでしょうか。

それは、元気だった頃の母を私が知っているからです。そして、目の前のすっかり弱ってしまった母を見て、つらさが先に立ってしまうからなのです。