撮影:木村直軌
作家・吉田修一さんの青春小説『横道世之介』が2013年に映画化された際、主演を務めた高良健吾さん。このたび、続編の刊行にあたり再会したお二人。吉田さんも高良さんも主人公・世之介同様、10代で九州から上京してきたことが共通項。そんなあたりから、今回も話がはずみます

スクリーンの中の高良くんをイメージして

吉田 実は『続 横道世之介』を書くことには、不安がありました。前作から10年が過ぎるなかで、世之介がすごく遠くに行ってしまった気がしていて。でも書き始めてみれば、世之介は世之介のままだった。ただ今回は、正直なところ、スクリーンの中の高良くんを完全にイメージして書いていましたね(笑)。素晴らしい映画にしてもらえて、本当に幸せな作品だと思います。

高良 僕も、24歳の時に『横道世之介』に出会えたのは、すごく幸せなことでした。それまでは、自殺する役とか狂気を秘めた青年とか苦しい役が多くて、世之介みたいな、どこかで会ったことがあるような、友達のなかにもいそうな人を演じるということがなかったので。

吉田 苦しい役の印象があまりに強かったから、「世之介役が高良健吾くん」と聞いた時、あれ? なんかイメージが違うぞ、と僕も思った。だから、撮影の見学に行ってびっくりしたんですよ。学園祭で太陽の被り物をしているシーンを撮っていたんですけど、イメージにぴったり。「あ、世之介だ」と思った。

高良 どうして世之介みたいな人間を描こうとしたんですか。 

吉田 さっきの高良くんの話と重なるんですけど、僕も当時、犯罪を題材にした重い作品が続いていたんですよ。それで、笑いを引き寄せるような人物が活躍する世界を描きたくなったんじゃなかったかな、そんな気がします。そういえば、撮影の合間に話をした時、「世之介は、笑わそうとはしていないんです」って言っていたよね。

高良 はい。世之介はいつも笑いを引き寄せますが、本人は真剣そのものですよね。笑わせようと意識しているわけではない。

吉田 確かに。

高良 あの時は、とにかく目の前にいる人に伝わればいい、カメラの向こう側の監督やお客さんに向かって芝居をするのではなく、カメラの手前で演技を終えたいと思って演じていました。「笑わせよう」とか「ここ、いいシーンでしょ」という意識はすべて排除して、目の前で起きていることに一所懸命反応する。それが世之介だと思いましたし。

吉田 そういう演技プランはどうやって考えるの?

高良 考えるというより、そうするように指導されてきたんだと思います。それまで監督から「オレにOKしてほしくて芝居しているだろっ」とか「カメラに向かって芝居するな」などと言われ続けて、落ち込んで。

吉田 10代の頃?

高良 20代の初めまではそんな感じでした。だから映画『横道世之介』には24歳の僕の芝居のとらえ方、感じ方、その時にしかできないことがそのまま残っています。