舞台、映画、ドラマにと幅広く活躍中のミュージカル俳優・市村正親さん。私生活では2人の息子の父親でもある市村さんが、日々感じていることや思い出を綴る、『婦人公論』の新連載「市村正親のライフ・イズ・ビューティフル!」。第8回は「青春だった、旅公演の日々」です。(構成:大内弓子 撮影:小林ばく)
食べられなかったわんこそば
今は『屋根の上のヴァイオリン弾き』の地方公演の真っ最中。富山公演から始まり、愛知、静岡、大阪、広島、福岡、宮城、そして故郷の川越で大千穐楽を迎えます。といっても、川越で『屋根の上』を上演するのは2度目だし、すでに何度も錦を飾っているけれど(笑)。
凱旋公演なんて言うのは周りの人たちであって、僕はただ、ほかの場所と同じように、その日の観客の前でその日にしか出来ない芝居をするだけなんだけどね。
旅公演にはこれまで数えきれないほど出ています。特に劇団四季にいた頃は、1年の3分の1くらいは旅だったんじゃないかな。最初のこどもミュージカル『ゆかいなどろぼうたち』(1973年)では、本当に北から南まで全国を回って沖縄が千穐楽だった。
その翌年の夏から秋にかけて旅をしたのが『ウェストサイド物語』。公演して翌朝電車に乗って移動。また次の町で公演して翌朝移動するという日々だった。時々移動だけの日もあってね。青森から函館までは青函連絡船で4時間だったし、東北はまだ新幹線が通っていなかったから、6~7時間かかったね。