(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
厚生労働省が公表している2023年の「介護給付費等実態統計月報」によると、85歳以上の59.5%が介護認定を受けています。高齢の親を子どもが介護するケースも増えるなか、「親思いの優しい人間が結果的に損をしてしまう」と語るのは、自身も介護経験がある作家・姉小路祐さんです。今回は、姉小路さんの著書『介護と相続、これでもめる! 不公平・逃げ得を防ぐには』から抜粋し、介護・相続をめぐる事例を紹介します。

小さい頃から跡取りとして期待されていた

Dさんは、幕末から続く和風料理旅館の経営者の長男として産まれた。小さい頃から跡取りとして期待され、調理師学校に通い、料理の腕を磨いた。

3歳年下の妹は、女将として多忙に働く母親を間近で見て「あんな人生は送りたくない」と反発し、繁忙期の旅館の手伝いも拒否した。高校時代から音楽バンド活動を始めて、卒業するとすぐに若いミュージシャンと同棲を始めた。そのあと鳴かず飛ばずのミュージシャンとは別れて、シンガポール人男性と国際結婚をして、海外移住となった。

その下の弟は、父親が調理師学校に入れて兄(Dさん)の補佐役にしようとしたが、自分には向かないと、すぐに中退した。そして家出同然に飛び出して、コンパニオンをしている年上女性と21歳で結婚したが、定職には就いていなかった。そのあと約2年後に高速道路で飲酒運転事故を起こして亡くなった。

事故に巻き込んでしまった被害者がいて、父と母はその事故の損害賠償もした。そのあと母親は病気で他界した。弟の死と賠償による心労も響いたのかもしれなかった。