解剖学者の養老孟司先生は2020年に心筋梗塞、2024年には小細胞肺がんを罹いました。抗がん剤と放射線治療により一度は回復したものの、2025年3月には再発がんが見つかり、現在も治療を続けています。今回はそんな養老先生と、その教え子で東大病院放射線科医師の中川恵一先生による共著『病気と折り合う芸がいる』から一部を抜粋し、養老先生へのインタビューをお届けします。
死は定義できない
死とは何か? これを議論すると、おかしなことになります。なぜなら死は定義できないからです。
人が死ぬということに関して、多くの人が誤解をしています。その人たちは、死という物理的な事実が存在すると思っています。ところがそんなものは存在しません。なぜなら定義できないからです。
よく言われる「すべての細胞が死ぬ」というのは、死を定義しているように思えますが、実は定義できていません。
かつては心臓が止まることを死と定義していましたが、今は脳死というものもあります。
かつて脳死をめぐる議論がもめた理由は、それまで脳死は定義できるものだという常識がなかったからです。