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2025年は第二次世界大戦の終結から80年という大きな節目にあたります。戦時中、日本のエンターテインメント界も大きな影響を受け、宝塚歌劇団の団員も激動の時代を生き抜いてきました。戦中・戦後の混乱期に活躍した団員に、元・タカラジェンヌの早花まこさんが話を聞き、華やかな舞台の裏で戦争がもたらした現実を振り返り、記憶にとどめる企画です

「白薔薇のプリンス」を観て卒倒しかけたお話

「白薔薇のプリンス」のことを語る時、彼女の声はいっそう溌剌と響く。春日野八千代さんというタカラジェンヌの存在は、今でも彼女の心をときめかせ続けていた。

語り手は、70年前に宝塚歌劇団の舞台で活躍した時凡子(ときみなこ)さんだ。劇団を卒業した後に結婚して渡米し、93歳になる現在もロサンゼルスで暮らしている。愛称は、ぼんこさん。

終戦後、京都の同志社高等学校に通っていた彼女は、高校3年生の時に宝塚歌劇と出会った。緞帳が上がり、紗幕の向こうに佇む一人の男役の姿に心を奪われた。

「あんまり美しくって、卒倒しそうになったの。家に帰るまでぼーっとしていたくらいなのよ」

その男役こそが「白薔薇のプリンス」と呼ばれた男役スター、春日野八千代さんだった。

初観劇で宝塚歌劇に魅了されたぼんこさんは、すぐにタカラジェンヌを目指した。その後、見事に難関を突破して宝塚歌劇団に入団し、憧れの春日野さんと同じ舞台に立つようになった。高校生の時に「白薔薇のプリンス」を観て気絶しかけた思い出話を語って聞かせると、当のご本人は声をあげて笑ったという。

その様子を真似て見せてくれたぼんこさんは、「はっはっはー」とお腹の底から響く低い声を出した。それは古い映像でも見ることのできない、春日野さんの若々しく男役らしい笑い方そのものだった。