今や生成AIは私たちの日常に溶け込み、ビジネスから創作活動まで、あらゆる場面で活用されています。そんな中、1983年からAIの胎動を感じてきたAI専門の研究者である黒川伊保子さんは「AIは、人間の感情を煽る感情ブースター。翻弄されずに乗りこなすには、ちょっとしたセンスがいる」と語ります。そこで今回は黒川さんの著書『AIのトリセツ』より一部を抜粋し、子どもにも伝えたい人工知能との付き合い方をお届けします。
AI社会が抱えるジレンマ――若手の勘をどう育てるか
勘が働くプロたちは、AIにはビビらない。でも、そのプロの勘《確信や腹落ちをする力》は、一朝一夕では手に入らない。体験すなわち体感を伴う経験が創り出すものだからだ。ということは、若手にとって、やはりAIは脅威なのである。しかも、味方のようにふるまいながらだから、質(たち)が悪い。
たとえば、今やAIは議事録を本当にうまく書く。AIというより議事録作成のプロンプトを書く人のお手柄だが、AIによって議事録を一から書かなくていい現場は、確実に増えている。上司にしてみたって、出来の悪い議事録にダラダラと1時間も使われて、何度も添削させられるより、AI議事録のほうが圧倒的にコスパがよくて気持ちいい。
ただ、議事録を書くということは、業務の直感的把握力を鍛えるエクササイズに他ならない。新人3年目までは、議事録プロンプトを使用禁止にすべきだ。プロンプトを自分で一から書くなら許可していいけどね。自分で完璧なプロンプトが書けるのなら、会議の構造もつかめているってことだから。
これは、議事録にとどまらない話だ。AIがなんでもやってくれる時代に、人はやっぱり、現場の作業をしないと、現場の勘を手にすることができない。
イラストレーターは、AIを使って納品物件を製作することも可能だけど、その傍らで自ら絵を描き続けなければならない。営業パーソンは、AIが千通りの営業メールを書いて、千通りの対応をしてくれる時代に、やっぱり人に会って、泣いたり笑ったりしなければいけない。