臨床心理士の信田さよ子さん(左)と、映画監督の島田陽磨さん(右)(撮影:本社・武田裕介)
〈発売中の『婦人公論』9月号から記事を先出し!〉
戦後81年経ち、帰還兵だった父による虐待に苦しんだ当事者たちが、ここ数年、声をあげ始めている。戦争トラウマを描いた映画を撮った監督の島田陽磨さんと、家族の機能不全に長年取り組んできた信田さよ子さんが、世代を超えて親子関係に影を落とす心の傷について語り合う。(構成:古川美穂 撮影:本社・武田裕介)

複数の人生を崩壊させていく

信田 戦争がどうやって人間を壊し、それがどのように次世代まで引き継がれていくか。島田さんが監督し、今年の春から順次上映されている映画『父と家族とわたしのこと』は、親に虐待された経験のある3人の生きづらさや苦しみを追うドキュメントです。

結果的に親の背後にある「戦争トラウマ」の大きさを浮かび上がらせています。反戦映画のようなイデオロギーではなく、極めて個人的な体験を普遍的なテーマにまで深めていると感じました。

島田 ありがとうございます。映画に登場する3人は、幼少時に激しい虐待経験を経て成人し、後に自身の子や妻に対して同じように虐待行為を行い、苦悩していました。彼らが受けた暴力と、それを行った父についてひもといていく過程をカメラに収めたのです。

信田 私のカウンセリングを受けている方のなかにも、この映画を観た方がけっこういます。親と一緒に観に行ったら、親がつらそうな顔をしていたという話も聞きました。

島田 感想で一番多かったのは、「自分の家もそうだと気づいた」という声です。お父さんやお祖父さんが戦争から帰ってきたら性格が変わった。お酒に溺れて暴れたり、廃人のようになったりして、ほとんどしゃべらなくなる。

それに端を発して家庭が崩壊していき、いまだに関係がうまく結べないとか、もう連絡を取っていないという方が非常に多くて。想像以上の方が同様の体験をしていることに驚きました。気づかず埋もれているケースもまだあるでしょう。