「人生には二つのたのしみがある。一つは食べること。もう一つはおいしいものをこしらえること」――そう語ったのは、半世紀以上にわたって珠玉の小説やエッセイを書き続け、2019年6月に亡くなられた作家・田辺聖子さんです。今回は、食べるのもつくるのも大好きな「おせいさん」が綴った美味しい記憶を収録した『食べるたのしみ』から一部を抜粋し、読めばお腹が空いてくるエッセイをお届けします。
思いがけぬ美味
人生は思いがけないことばっかり、おきる。
私は大阪の下町そだちで、大阪人は春の魚島の桜鯛などを景気よく食べもするが、また、他郷の人が捨てるような、ハモの皮やウナギのあたま、鯨のコロなどを上手に使って、おいしく料理する。
ハモの皮は胡瓜ときざんで二杯酢に、ウナギのあたまは半助というが、焼豆腐とたきあわせ、コロは水菜のハリハリ鍋に、と、かなり口の奢ったくらしをする。そういうのを大阪人は自慢にし、料理上手を誇っていた。私もいつかそれに慣らされて、食べものを、とことん上手に工夫しておいしく食べるのは大阪人だけや、と思いこんでいた。
ところが、そんな才覚や工夫は、まだまだ底の浅いものであったのだ。世間がせまいということはしようのないものであるのだ。