(撮影:岡本隆史)
演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が訊く。第56回は歌舞伎役者・俳優の坂東彌十郎さん。2022年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では主人公北条義時の父・時政を演じたことが、大きな転機となったそうで――。(撮影:岡本隆史)

<前編よりつづく>

「二度と顔を見たくない、出てけ!」

3代目猿之助(のちの2代目猿翁)が哲学者・梅原猛と組んだスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』には初演(1986年)から参加している。

――僕はタケルに討たれる熊襲でしたね。この時は、演出助手としても走り回っていました。

僕はもう、いろんな面でいまだに猿翁さんを尊敬しているんです。でも当時、一門にずっとくっついていたらぬるま湯の中にいるみたいになっちゃうと思った。猿翁さんが切り開いてきたことを、自分もやりたいと思ったんで、ある日相談に行くわけですよ。

しかし、「そんなことここにいたってできるじゃないか。駄目だよ辞めちゃ。とにかく明日、奥さんと二人で来て」と言われて、軽井沢を二往復です。そこで、かみさんが「今回だけはこの人のやりたいようにやらせてください」と言ったんですね。

そしたらじーっと僕の顔見てて、ボロボロボロッと涙こぼして「二度と顔を見たくない、出てけ!」って。でもその後も猿翁さんは、ずっと僕の動きを気にかけてくださっていたんですけどね。