「自分を大切に生きていい」
『ブラッサム』というタイトルには「咲き誇れ、わたし」というメッセージを込めた。「自分自身を肯定して咲き誇るだけではなくて、隣の人にも咲き誇ってほしいという意味もあります。そんな前向きな気持ちが広がることで、世の中が良くなっていったらいいと願っています。自分を大切にして生きていいと伝えていきたくて」と明かす。
企画を考えるきっかけのひとつが、「人生100年時代」「多様性」という言葉だった。「1人の人間が100歳までどうやって多様性を担保しつつ生きて行くのか、何の指針も示されていない」と気づいたのだ。そんな時、宇野千代の存在が思い浮かんだ。
宇野千代は98年の人生で、出会いと別れを繰り返しながら、新しい価値観を作り出していった。作家として物語を紡ぐ一方、1936年にはファッション雑誌『スタイル』を創刊。1949年には着物デザイナーとして「宇野千代きもの研究所」も設立。4度の結婚と離婚をし、恋と仕事に生きた。「宇野さんは、大変な人生を歩んだけれど、最後まで咲き誇っていた。宇野さんをモデルにしたら、100歳生きることの大変さと同時に、生きることの面白さを伝えられると感じました」
現代は、多様性が担保されているようで、目立ったことをするとSNSなどを通じて、顔も知らない誰かに何かを言われることもある。「息苦しさが違った形で出てきているのかもしれません。だからこそ、自分はこのままで大丈夫だと突き進むパワーは大事だし、それを僕らのようなドラマを作っている人間や文化芸術に携わる人が発信していかないといけないのではないかと思っています」
宇野千代は、1983年、85歳の時に自伝的小説『生きて行く私』を出版し、100万部を超えるベストセラーになった。エッセイも多く残しているが、触れられていないリアルな感情があると感じたという。
「たとえば、『生きて行く私』では80代の宇野さんがこれまでの人生を、『こんな感じでやり切った』という俯瞰の視点で書いています。困難なことが起こった時のヒリヒリした感情は描かれていません。『いろいろあったけれどへっちゃら』と言っているけれど、へっちゃらじゃなかったはずです」と訴える。描きたいのは、俯瞰で人生を振り返るようになるまでに積み上げていったリアルな感情の数々だ。「『ブラッサム』は、1人の女性が新しい価値観や生き方を獲得していくまでの変化の物語。宇野千代さんが残した作品とは全く別の物語が見えてくるはずです」