スパイに採用される人は、どんな人?
映画『007』のジェームズ・ボンドのように、高級なタキシードを着こなし、世界の命運を賭けたド派手なアクションを繰り広げるヒーロー像は、エンターテインメントとして非常に魅力的だ。
しかし、こうした虚像は、現実の情報機関にとっては、ときに業務の障害になり得る。あまりに世間の幻想が強すぎるため、各国の情報機関は、公式サイトなどを通じて、こうしたイメージが現実とは異なることをわざわざ発信しているほどだ。
実際、映画『007』の新作が公開されると、CIAやMI6の採用特設サイトには、スクリーンの中のヒーローに憧れた世界中の若者たちからの応募が殺到し、サーバーが一時的にパンク寸前に追い込まれることもあるという。
組織がわざわざ現実を突きつけるのは、職務を誤解した志願者を減らし、真に適性のある人材を確保するためでもある。
「007の見すぎ」――フィクションと現実は大違い
2021年、ジェームズ・ボンドが所属している(設定の)イギリスの情報機関、MI6の長官は、公式の場において「#ForgetJamesBond(ジェームズ・ボンドを忘れろ)」という、前代未聞のハッシュタグを掲げてメッセージを発信した。
そしてこれに呼応するかのように、2022年にイギリス国内で中国のスパイ活動に対する批判が高まった際、中国外務省の報道官は「イギリス側は『007』の見すぎだ」と言い放って反発した。このようにフィクションのイメージは、国際政治の現場にまで影響を与えているのだ。
これに対し、アメリカのCIAも公式ホームページ上に「スパイをめぐるよくある神話」を紹介するページを設け、映画やドラマによって生まれた誤解を否定している。
外国でのド派手なカー・チェイスや、ハイヒールのかかとに仕込まれた盗聴器などは、あくまでドラマの世界の産物だ。現実の職員の多くが担っているのは、変化しつづける世界の中で、地道に情報の収集や分析を重ねる専門的な任務なのである。