(写真提供:Photo AC)
笑える科学『イグノーベル賞』をご存知でしょうか。人々を笑わせ、そして考えさせる研究に贈られる賞であり、そのユニークな研究内容から、毎年の授賞式は科学に馴染みのない人からも注目を集めています。サイエンスライターである五十嵐杏南さんは、「科学者たちは、自らを実験台にしたり、何十年も同じテーマを追い続けたりしながら、素朴な疑問に本気で挑みます」と語ります。そこで今回は五十嵐さんの著書『ヘンな科学:“イグノーベル賞”研究42講』より一部を抜粋し、「科学の面白さと奥深さ」をお届けします。

ポテチは音がするとより美味しく感じる――食は五感で楽しむもの

イギリスの「The Fat Duck」というミシュラン三つ星常連レストランに、「The Sound of the Sea」という名の一風変わったメニューがある。タピオカで作った砂浜の上にお刺身を盛って、貝殻の中に入れたiPodから海の音を流し、ヘッドフォンでその音を聞きながら食べる、というものだ。

「魚介料理は海の音を聞きながら食べると、より味わい深く新鮮に感じる」という研究結果に基づき考案されたこの一皿。お客の中には感激して泣いてしまう人もいるらしい(今度、スーパーのお刺身で試してみるといいかも? ……なんて言ったら食のプロたちから怒られてしまいそうだ)。

そんな感動的なメニュー開発の原点ともいえる研究は、2008年に栄養学賞を受賞した、ポテトチップスに関するものだ。ポテチを食べている間に美味しそうなパリパリ音を流すと、さらに美味しく感じることについて調べた研究で、オックスフォード大学のチャールズ・スペンス教授と、共著者のマッシミリアーノ・ザンピーニ博士によって行われた。

スペンス教授はこれまで、五感がどのように連係し合っているかを研究してきた。ポテチの研究の前は、車を運転する時の危険感知シグナルの開発に携わり、音や映像の刺激を使い、運転手に効果的に危険を知らせる方法について研究していた。

この研究では、危険を知らせる音が運転手の後ろから聞こえてきた時のほうが、横から聞こえてきた時よりも、注意がすばやく前方に向くことを突き止めた。研究の成果は、実際に某メーカーのトラックに生かされている。

ポテチの研究を思い立った当時は、洗剤会社と連携した研究で「パリパリに乾いてしまった手をすり合わせた時に音を聞こえにくくすると、手が実際よりもしっとりしていると感じる」という発見を実用化しようとしていた。

そんなある日、飲み屋でおつまみのポテチを見て、「ポテチのパリパリ感も音に影響されるのでは?」とひらめいたことが、イグノーベル賞受賞研究を始めたきっかけだった。