古関裕而と金子、夫妻の長男の正裕さん。1948年頃(写真提供:古関正裕さん)
NHK連続テレビ小説『エール』で、窪田正孝さんが演じる主人公・古山裕一のモデルは、名作曲家・古関裕而(こせきゆうじ)だ。先週は妻・金子(ドラマでは二階堂ふみ演じる音)のオペラの夢、今週は弟・浩二(佐久本宝)の恋が描かれた。古関の評伝を書いた刑部芳則さん(日本大学准教授)によれば、古関は妻のためにオペラを描いているという。「高原列車は行く」の誕生秘話と併せて、当時を振り返ってみるとーー

※本稿は、評伝『古関裕而 流行作曲家と激動の昭和』(刑部芳則・著/中公新書)の一部を、再編集したものです

妻のために創作したオペラ三部作

「鐘の鳴る丘」の音楽を担当するなか、古関は「朱金昭(ちゅうちんちょう)」「トウランドット」「チガニの星」という三篇のオペラを創作している。これは昭和24年から25年にかけて放送されたラジオの放送劇であった。ただし、それだけが目的ではなく、古関の妻金子を想って作っていた。

『古関裕而 流行作曲家と激動の昭和』(刑部芳則・著/中公新書)※電子版もあり

世界的に活躍していた声楽家の関屋敏子や藤原義江のマネジャー塚本嘉次郎は、金子の歌を聴き「古関君、君は奥さんのためによいオペラを作曲すべきだ」と助言していた。古関は仕事が忙しくなり、自分や子供たちのため、金子がクラシック音楽の勉強ができなくなったことを心苦しく感じていた。

そのようなときに、東郷静男原作、近江浩一演出で、30分のオペラ劇を2、3回放送するという話が浮上した。古関にとって渡りに船といった企画であった。出演は、藤山一郎、山口淑子(戦時中は李香蘭として流行歌を歌っていた)、古関金子、栗本正であり、いずれも声楽を学んでいた。