第1回が配信されるやいなや、大きな話題になった翻訳家・村井理子さんの隔週連載「更年期障害だと思ってたら重病だった話」。47歳の時に心臓に起きた異変。村井さんは心不全という診断にショックを受ける。利尿剤の処方でむくみが取れたと大喜びしていたところ、ついに検査が始まった。思ったよりしんどかった経食道心エコー検査終了後、7歳の時に開胸手術を受けた思い出がよみがえる。すると看護師さんが病室にやってきて、一言「次はカテーテル検査になります」。えっ、やっぱりカテーテル検査やるの? 『兄の終い』の著者が送る闘病エッセイ第10回。

前回●7歳で開胸手術を受け、成長期を痛みとともに過ごした話

人間の血管って、そんなに強いもの?

「首からです」と主治医は言った。

思わず、「えっ」と声が出てしまった。

心臓カテーテル検査の話だ。子どものときに経験していたカテーテル検査は、鼠径部から管(カテーテル)を入れ、さまざまな検査を行い心機能の評価を行うというもので、今回もてっきりそうだと思っていた。鼠径部でも十分嫌だが、首からって余計に嫌じゃない? とうろたえている私に主治医は、「それから、左手首からです」と言った。えっ、2カ所同時多発的な検査なのか? ますます狼狽(うろた)えた。

主治医は、その後もさまざまな説明をしてくれたが、ほとんど記憶に残っていない。局部麻酔はするから大丈夫、さほど時間がかかるわけではないけれど、止血はしっかりやらないといけないので、検査後は安静にしていただきますねと続け、呆然とする私を残して病室を去って行った。主治医の表情は明るいもので、特に深刻な印象は受けなかった。きっと彼女にとっては、慣れた検査なのだろう。しかし、私の頭のなかでは、「首と手首」という文字がグルグル回り始めていた。

首に管を刺すって、それってすごくない? だいたい人間の血管って、そんなに強いものなのだろうか。ある程度の太さのある管を刺して、ビリッと破れたりしないのだろうか? それも長い管なの? 人間の血管って、金魚の水槽に入れるブクブクについている透明のチューブぐらいの存在感はあるのだろうか……そんなことを考え続けたのだが、5分ぐらいで諦めた。もういいや、なんとかなるだろうと考えて、ベッドに横になった。