手首楽勝。首よりはマシ?

両目をぎゅっとつぶったまま、神様、どうか早く終わらせてください、お願いします、早くこれを終わらせて……と祈り続けてどれぐらい経っただろう、たぶん10分も経っていなかったと思うが、主治医の「それじゃあ抜きますね」の声と同時に、首から何やら長い何かがずるずるっと抜かれ、首筋に大きなテープが貼り付けられた。すべての圧迫感が消え去った。心の底から安堵した。喉にはズキズキとした痛みが残っていた。

間髪入れず、「次は手首です」と言った主治医は、再び麻酔を打った。今度の麻酔はまったく痛くなかった。心のなかで、「手首楽勝。首よりはマシ」と思っていた私だったが、それは大きな間違いで、手首は手首で大変だった。

痛みは一切ないが、何かが手首から入り、ずずずっと血管を進む様子がはっきりと分かるようだった。本当にそのように感じられたのか、それとも私の妄想が膨らんでそう感じてしまったのかはわからない。わかっているのは、私がホラー映画を観すぎているせいで、すべてが拷問のように思えてしまったということだった。30分後に検査が終わった時には、へとへとに疲れ切っていた。

ハリーもぐったり?(写真提供:村井さん)

首には大きなテープ、左手首には止血用の器具がしっかりと巻き付けられていた。ヨレヨレになった私を、送ってきてくれたときと同じ看護師さんが迎えに来てくれた。

「ごくろうさまでした~」と明るく言う看護師さんに「いやあ、死ぬかと思いました」と答えると、「あはは、大変でしたねえ」と笑っていた。
 

次回●主治医に〈私は近い将来に死にますか?〉と質問をぶつけた話

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『更年期障害だと思ってたら重病だった話』
村井理子・著
中央公論新社
2021年9月9日発売

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村井さんの連載「更年期障害だと思ってたら重病だった話」一覧
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