現在発売中の『婦人公論』6月8日号の表紙は女優で作家の岸惠子さんです。このたび、88年の人生を振り返る自伝を上梓した岸惠子さん。結婚に伴い渡仏、女優業に邁進しながら国際ジャーナリストとしても活躍するその生き方は常に情熱的。新しい「いま」を手に入れるためにいくつもの決断をしてきました。発売中の『婦人公論』から記事を掲載します。
「5月1日」へのこだわり
ちょうど1年前、2020年の5月いっぱい、『日本経済新聞』に連載した「私の履歴書」が思わぬ好評をいただいて、沢山の出版社から自伝として本にすることをお勧めいただき、結局、旧友の推薦で岩波書店にお願いすることになった。
新聞の連載は、枠が限られていたので、《本にするなら思いのたけを書きたい》というたいした意気込みで書き始めたのが、8月ごろだったと思う。どうしても今年、2021年の5月1日には発売の運びにしたい、という思いにとらわれてしまった。
けれど、書いた文章を幾度も読み返す癖があって、その度に手を入れたり、書き直したりするので捗らない。間に合わないのではないかとかなり焦ったりした。5月1日は私の独立記念日なのだ。