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日本を代表する俳人のひとりである宇多喜代子さん。85歳になった今、友だちづきあいの様相は――

70歳くらいのときに作った拙句に、

悪友のわけて恋しき寒夜かな
喜代子

がある。70とはいえ、いまだわが老いに切実なおもいを持っていなかった頃の句だ。ところが、85にもなり、本当に老いきってしまった今、悪友恋しきおもいはあの頃以上に募るのである。

「わけて恋しき」悪友とは、奇麗ごととは無縁の友だちどもである。集うのはそこそこの赤提灯、そこそこの酒と旬のものが一皿あればよし、そんなツレである。みな自分のことは棚にあげ、まずは世評上々の同輩の句をことごとく打ちのめす。俳句がわれらがイッパイのなによりの肴になるのだ。

おおいに叩かれ、ダメ呼ばわりする悪友どもの目を潜るたびに、その俳句に磨きがかかってゆく。いわばわれらのイッパイの場で話題にならぬような句ははなから駄目な句なのである。わが悪友に共通しているのは俳句の目利きであるということ、しんとした冬夜に恋しくなるのは、そんな友だちである。