「野球が好き」という大谷の思いは、笑顔からも伝わってくる(写真:AP/アフロ)
米メジャーリーグ、ロサンゼルス・エンゼルスで活躍する大谷翔平選手は、10月27日(日本時間)、米大リーグ機構(MLB)から、1998年の創設以来15人と1球団しか受賞していない「コミッショナー特別表彰」を受賞。米野球専門誌『ベースボール・ダイジェスト』では野手部門で最優秀選手(MVP)に選ばれた。所属4年目となる2021年のシーズン中に数々の輝かしい記録を残した彼の強さの根源はどこにあるのか──。大谷選手を高校時代から取材してきたスポーツライター、佐々木亨氏ががその魅力に迫る(取材・文=佐々木亨)

良くても悪くてもどんどん変えていく

体の奥まで温めてくれる豆腐料理や茶わん蒸しを口にしながら、ゆっくりと言葉を交わす。季節は師走だ。木目調のテーブルをはさみ、アメリカへ旅立とうとしている彼にこう訊ねたことがある。

《みんなはスーパーヒーローだと思っているよ。そんな周りの目はどう感じる?》

すると、あっけらかんとした口調でこう返された。

「スーパーヒーローなんかじゃないですよ。できないことも、たくさんありますし」

彼はそう言って、微笑むのだ。

それは2017年12月のことである。彼はメジャー球団であるロサンゼルス・エンゼルスの入団会見を終えたばかりだった。彼とは、当時23歳だった大谷翔平。その時、大谷はこんな言葉も残している。

「自分がバッティングでもピッチングでも日本でトップだと思っていません。そもそも、トップになったから(メジャーに)行くという発想自体がありません。僕は、日本のトップじゃなくてもアメリカへ『行ってもいい』と思っています。

そういう考えがなければ、高校からメジャーへ行きたいとは言わなかった。絶対的な実力を日本で身につけてから行くのが普通かもしれませんし、一般的に考えると『まだ行くべきじゃない』と思うんでしょうけど。

もちろん『トップに上り詰めてから』というのは素敵だと思いますし、格好良いとも思います。でも僕は『今、(アメリカへ)行きたい』から行く。

日本でも、まだまだやり残していることがあると思うんですけど、それが向こうに行ってできないのかと言えばそうではない。向こうでもできることがあるし、日本でやり残していることを向こうで埋めることもできる。今行くことで、今以上のことを身につけたりすることもあると、僕は思うんです」