自立した生活の鍵は「骨」「筋肉」「関節」
年齢を重ねるにつれて、人の体にはさまざまな不調が出始め、特に70代以降になると骨やそれを支える筋肉・関節の衰えが顕著にみられます。これは自然現象であり、残念ながら誰しも避けて通ることはできません。
しかし、「自立した生活を送る」という点ではどうでしょう。介護が必要になる原因の上位は認知症、脳血管疾患、高齢による衰弱ですが、次いで多いのが「骨折・転倒」(厚生労働省「国民生活基礎調査」2019年)。つまり、「転びにくい体」になれば、天寿をまっとうするまで元気に生活できる確率が上がるのです。
女性の場合、閉経後に女性ホルモンが減少する影響で、もともと骨はもろくなりやすいもの。そこに筋力の低下が加わるとバランスを崩しやすくなり、支えを失った骨は小さな衝撃で簡単に折れてしまいます。また、ひざ関節や股関節が硬くなり可動域が狭まれば、低い段差でもつまずきかねません。
そのため、骨に刺激を与えて骨密度を上げることはもちろん、周辺の筋肉や関節の働きも一緒に整えることが大切なのです。特に、脚をしっかり持ち上げたり、とっさの時にグッと力を入れて踏ん張ったりできるように、「瞬発力のある筋力」をバランスよく鍛えましょう。また、日頃の運動習慣で関節がスムーズに動くようになれば、歩幅が広がり転倒予防にもつながります。
私は83歳になる現在まで、高齢者に向けたリハビリテーションと骨の診療に携わり、適切な運動の重要性を実感してきました。しかし、病院のリハビリ訓練室にあるような器具を使うとなると、日常生活に取り入れるのはなかなか難しい。そこで考案したのが、「新聞紙体操」です。
最近は新聞を取らないご家庭も多いようですが、読者の皆さんはきっと新聞からさまざまな知識を吸収し、脳の活性化にも役立てていらっしゃることでしょう。その読み終えた新聞紙を再利用するだけで、自宅で簡単に全身をトレーニングできるのです。リハビリの基礎運動がもとになっているので、体を動かすのが苦手な人でも負担なくできるはず。今回は、転倒予防に効果のある体操を選びました。
さらにもう一つ、私がこの体操をおすすめする理由として、近年研究が進む骨ホルモン「オステオカルシン」の存在があります。運動により骨に刺激を与えると、骨芽細胞が活性化し、同時にタンパク質の一種であるオステオカルシンが分泌されます。主にカルシウムやリン酸を石灰化する役目を担っていますが、一部が血液に溶け出し、全身の臓器の活性化につながることがわかってきました。
たとえば、膵臓でインスリンの分泌を促して糖尿病を予防したり、脳に働きかけて認知機能を改善したり。ほかにも肥満、脂質異常症、免疫力の低下など、老化にともなうさまざまな疾患の予防に効果が期待されているのです。
当然、体を動かさなければ骨が再生されにくくなり、骨ホルモンの分泌も減ってしまいます。私も、5階くらいなら階段を使うようにしていますよ。皆さんも、家にいながら手軽にできる新聞紙体操で、健康かつ充実した毎日をお過ごしください。