教科書ではわからない
その時代の生活感が見える
学生時代は日本史が苦手だった。
しかし時代劇に出るようになると、多少なりとも歴史を知らなければならない。与えられた役にふさわしい所作、言葉遣いを専門家から学んで演じるが、昭和生まれで平成、令和に生きる現代人としては、歴史書などには描かれない当時の生活感のヒントが欲しい、と切に思っていた。
本書は、第1章で明智光秀の出世術、明智を織田信長側に付かせた黒幕などについて、歴史の闇を暴いていく。現代の政治は人事と聞くが、戦国時代の政も人事なのだ。
第2章には忍者も登場する。忍者=機敏のイメージがあるが、敵方に潜入して捕えられるケースも多いらしい。江戸期の甲賀の忍びの禄はそれほどでもなく、やりきれない役目のようだ。今だって見返りのない仕事は辛い。
歴史の意外な裏側に興味が湧いたが、著者が全国各地で発掘した史料をもとに戦国から江戸、幕末までの裏側をひもといてくれるのが肝。なんでもネット検索できてしまう時代だが、一次史料は重要で信頼度も高い。
奈良の薬種商が残した『関東一見道中記』は庶民が食欲と性欲を満たす旅の記録。どこで何を食べて、どれがうまくて、何がまずいか細かに記す。江戸版食べログ?役に立つわけじゃないけど、人間の尽きない欲、執念を感じる。これぞ生活感。
維新後、チョンマゲからヘアスタイルを一変したことは知られているが、手順については考えたこともなかった。細かすぎる生活感、ありがとうございます。
疫病と災害の歴史も振り返る。コロナ禍の上、自然災害がいつ起こるかわからない現代、これからの生き方を考えるヒントになる。
今につながる日本や日本人を振り返るのが日本史だと知っていれば、これほど苦手意識もなかったかも……。歴史への向き合い方を変えてくれる一冊だ。