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「男の子は仕事 女の子は家庭」という意識 父の病死で母の生活は変更を余儀なくされる 弟にも刷り込まれた昭和の価値観 父の遺影の前にマスクメロンが 「男は仕事、女は家庭」の象徴
専門家に聞いてみた
老人ホームの紹介事業を展開する「あいらいふ」の相談員、平田由紀子さんにうかがいます。

専門家に聞いてみた

平田由紀子さん

 介護は、娘や「嫁」ら女性がやるものという意識は根強いと感じます。恥ずかしながら書いた、弟の状況を友人にこぼしたら絶句されました。もう少し(実際には、「もう少し」どころではないのですが)関与すべきではないかと思います。弟の家は隣町。例えば、1ヵ月の半分とか弟の家で母の面倒を見てもらうというのはどうなのでしょうか。さらに、デイサービスに通ってもらう準備も進めていますが、将来的には、施設への入居を考えなくてはならない時が来るのをひしと感じています。施設への入居の判断基準を教えてください。

A 私の経験でも、積極的に介護に関わろうとする男性は多くありません。兄弟姉妹がいるとすると、男性のほうが「うちは大丈夫です」「親は家で自分で生活できます」とおっしゃる方が多いように思います。おそらく男性は家庭生活にあまり関わっていない方も多いので、変化に気づかないのかもしれません。親の家での生活や身体の状態など現実が見えていないこともあるかもしれません。一方、介護される方も、介護してくれる男性に対しては感謝の言葉を述べても、女性に対しては当たり前、という意識が強い方も多いように感じます。

私の祖母の場合、母が同じ敷地内に住み面倒を見ていましたが、たまに来る叔父に祖母の介助を頼んだ時は、叔父は一緒にいるだけでいいと思っているらしく、ポータブルトイレの処理はしない、食器を洗うのは雑、で母のストレスは高まりました。

現在の状況であれば、弟さんに何をやってほしいか、弟さんは何ができるかについてハンドリングが必要です。まず、弟さんに介護に関わってもらい、現実を見てもらうことが重要です。そうしないと、いざ施設を考えなければならないような事態に陥った時、適切な判断ができません。

介護保険で介護を受ける場合、月1回ケアマネジャーさんの訪問があり、またケアプラン作成や変更時に、ケアマネジャーさんが利用者(お母様)に関するサービスの担当者を集めてサービス担当者会議が開かれます。その場に、弟さんに加わってもらってはどうでしょうか。また、デイサービスの見学などに同行してもらって現実を知ってもらうのもよいでしょう。

お母様が弟さんの家でひと月の半分を過ごす件ですが、認知機能が低下した人にとって、生活の場を変えることは非常にストレスになります。認知症の方は、長期記憶は残っているので長い年月を過ごした家ですと、それなりに日常生活ができます。しかし、最近のことは覚えられないので、新しい生活環境に慣れるまでにはとても時間がかかりますし、かなり混乱することも考えられます。さらにお母様の場合、「仕事をしていて忙しい長男」に対する思いが強いようです。寂しいけれど、息子から連絡がなく、実家に来ない事実を認めたくない意識も強いのかもしれません。そこで一緒に住んでみたところ、息子が自分にあまり関心を示さない、何もしてくれないとわかると、ショックを受けることもあるのではないでしょうか。まずはお試しで半日とか1日、弟さんの家で過ごしてもらい様子を見ることから始めてみてはいかがでしょうか。

施設に入ってもらうタイミングについては、外出して家に帰って来られなくなったり、徘徊が始まったりしたら、すぐに検討を始めることをお勧めします。徘徊は、ただ自宅に帰って来られないだけでなく、熱中症になったり、こごえたり、交通事故にあったりというリスクを伴います。また、自宅での介護は限界という切羽詰まった段階で施設を決めようとすると、「入れてもらえるならどこでもいい」という気持ちになってしまい、適切な施設を選べなくなることもあります。
そうなる前にとても重要なのは、施設について情報取集をしたり、施設を見学したりと準備をしておくことです。老人ホームにはいろいろな種類があります(下図参照)。

高齢期の住まいの特徴(あいらいふ提供)

例えば、特別養護老人ホームは、かつて「どんぶりご飯」などとあまりよくないイメージがありましたが、今は大きく変わってきています。
また、民間の有料老人ホームでは、体験入居ができるところもあります。
特別養護老人ホームや民間の有料老人ホームでも、認知症の高齢者が入居することができます(各施設の方針や入居者の状態によります)が、認知症に特化した施設には、グループホームがあります。5~9人が1ユニットとなる少人数制で運営され、寝室は個室、バスやリビング、ダイニング、キッチンは共用です。介護職員のサポートを受けながら生活しますが、入居者各自が可能な家事をしたり、レクリエーションに参加したりしながら共同生活を送る施設です。共同生活が苦手な人は難しいかもしれませんが、世話好きの人には適しているでしょう。

入居を希望される方の身体状態や性格、要望によってどのような施設がふさわしいのか異なります。まずは金銭面でいくらまで負担できるのか、どういう生活を送って欲しいのか、介護される側はどのような生活を送りたいのかを含め、ご家族で話し合い、準備しておくことは、介護される人、介護する人にとって幸せにつながると思います。

(聞いて一言)
母が認知症と認めたくない気持ちがあり、物忘れ外来に診察に連れていくのを躊躇したのと同じく、「施設」についても頭では想定しながらもよく考えていませんでした。今回、平田さんの話をうかがって、いたく反省。例えば、自宅から近いところにどのような施設があるのかについての情報収集は必要だし、そう労力を使わずできると気づかされました。見学については、母のためだけでなく原稿にも役立つ!と考えてしまいました。

平田 由紀子
株式会社あいらいふ
入居相談事業部に所属
船橋相談室 相談員
介護支援専門員・介護福祉士資格保有