歌手、俳優の美輪明宏さんがみなさんの心を照らす、とっておきのメッセージと書をお贈りする『婦人公論』に好評連載中「美輪明宏のごきげんレッスン」。
7月号の書は「私の耳は貝の殻/海の響きを懐かしむ」です

たまには詩集を開いてみませんか

私が好きな詩をひとつご紹介しましょう。フランスの芸術家ジャン・コクトーの詩を、堀口大學が訳したものです。

「私の耳は貝の殻/海の響きを懐かしむ」

若い頃にこの訳詩に出合い、暗記している人も多いようです。日本人に馴染みの深い七五調に訳されているからでしょう。短い詩のなかに、豊かなイメージが込められており、しかも七五調の響きが心地よい。口ずさむと、脳裏に海の風景や波音まで広がるような気がしませんか。

ジャン・コクトーは詩人、小説家、戯曲家、映画監督や画家として多くの業績を残した総合芸術家。映画『美女と野獣』や『オルフェ』からは私も大きな影響を受けましたし、戯曲『双頭の鷲』を現代によみがえらせようと、何度か自ら演出・出演しています。ちなみに『オルフェ』などコクトーの数多くの映画で主演しているジャン・マレーは、コクトーの恋人でした。

詩は言葉の玉手箱。美しい言葉の世界に身を置くことで、心の感度が磨かれ、美的な感性も育ちます。

ところが最近は詩集を手にする人が減っているようで残念です。あまり詩に馴染みがない方は、まずは中原中也や石川啄木、佐藤春夫、北原白秋などの詩に親しんでみてはいかがでしょう。訳詩ならコクトー、ヴェルレーヌ、ランボー、ハイネなどがおすすめです。

おいしい紅茶やコーヒーを飲みながら、詩集を開く。1日に30分でもいいのでそうした時間を持つと、人生が豊かで美しくなることでしょう。

●今月の書「私の耳は貝の殻/海の響きを懐かしむ」