和田先生いわく「早いところ、お迎えが来てくれないかしら」と願ったりする人には要注意とのことでーー(写真提供:Photo AC)
65歳以下の場合、うつ病にかかる割合はおよそ3%。それが、65歳以上になると5%に増えるといわれています。定年退職後に自由な時間を楽しむはずが、不安やストレスで悲観的に日々を過ごしている方も多くいらっしゃいます。「65歳から先、体と脳は確実に老いていくが、心だけは、自分次第で若がえる」と語るのは、高齢者専門の精神科医である和田秀樹先生。和田先生「肉を食べれば体が元気になり、幸せも湧いてくる」と言っていて――。

65歳以上の15%程度はうつ状態

「私の人生、こんなもんか」

65歳を過ぎると、人生の先が見えたような気がして、あきらめの感情を持ちやすくなります。この思考こそ、「幸せホルモン」である神経伝達物質・セロトニンの分泌量が減っている証、ともいえるでしょう。

実際、65歳を過ぎると、セロトニンの分泌量が減っていきます。

セロトニンの分泌量がさらに減ってしまうと、幸福感すら覚えなくなっていきます。

すると、「もう誰にも必要とされていない」と感じ、「オレなんて、もうどうでもいいや」と投げやりな気持ちになったり、不幸を数え始めたりするようになります。こういった思考に陥ると、老人性うつを発症している可能性があるのです。

ときどき、「もう、いつお迎えが来てもかまわない」といったり、「早いところ、お迎えが来てくれないかしら」と願ったりする人がいます。

そうした言葉も、老人性うつを発症すると口にしやすくなります。セロトニンが減ってしまうと、「生」に対する前向きさを失ってしまうのです。

アメリカの老年医学の教科書には、65歳以上の5%、つまり、20人に1人がうつ病を抱えている、と書かれています。

日本では、「精神科にかかるのは恥ずかしい」と思い込んでいる人が多い傾向にあります。病院や周囲の人に頼れず、一人で苦しんでいる人の数は、日本ではかなり多いと推測されます。

私が患者さんと接している感覚では、一時的に気分が落ち込む「抑うつ状態」の人も含めて、65歳以上の人の15%程度が老人性うつ、もしくは抑うつ状態にあるのではないか、と考えています。

なんの対策もしなければ、加齢とともにセロトニンの分泌量は減ります。だからこそ、心の老い支度(老いと上手に付き合っていくための心の準備)ができていないと、セロトニンの分泌量は減る一方となり、気分が落ち込みやすくなってしまうのです。

セロトニンが減れば誰でもなる病気が、うつ病です。