光免疫療法の仕組み

小林が研究室を持ってから光免疫療法の「発見」まで4年、オバマが取り上げ注目を浴びるまで7年、日本で早期承認がなされるまで15年。

小林が開発した光免疫療法とはどのようなものなのか、少し詳しく見ていきたい。

光免疫療法は4つのステップからなる。

(1)「薬剤の注入」IR700と抗体などを結合させた複合体を薬剤として患者に点滴し、狙ったがん細胞と結合させる。

(2)「近赤外線の照射」薬剤投与の約1日後、患部に近赤外線を照射する。

(3)「がん細胞の破壊」近赤外線の光エネルギーでIR700が化学変化を起こし、結合していたがん細胞の細胞膜に無数の傷がつくことでがん細胞が破壊される。

(4)「免疫系の活性化」がん細胞が破壊されると周辺の免疫細胞が活性化し、がんに対してさらなる攻撃を開始する。

この4つのステップはこう考えるとイメージしやすいかもしれない。(1)スイッチを入れない限り爆発しない安全な爆薬、いわばダイナマイトを狙った場所に設置する。(2)スイッチを入れる(近赤外線が信号となる)。(3)信号を受け取ったダイナマイトが爆発する。(4)がん細胞があった時は抑制されていた免疫細胞が、がん細胞が死んだことで元気になって、ダイナマイトが届いていないがん細胞や信号が届かない範囲にあったがん細胞を攻撃し始める。

ダイナマイトというのはオーバーな言い方ではない。がん細胞の壊れ方について小林は「まるで人体の内側に小さなダイナマイトを仕掛けられたような感じ」と言い、IR700と抗体の複合体を〈ナノ・ダイナマイト〉と名づけている。

「光が当たった瞬間にがん細胞の細胞膜が破壊されていくので、がん細胞は瞬間的に死んでいきます。がん細胞の表面にナノレベルのダイナマイトを無数に仕掛けて、そこに近赤外線のエネルギーで“起爆スイッチ”をオンにするようなものです」

 

※本稿は、『がんの消滅――天才医師が挑む光免疫療法』(新潮社)の一部を再編集したものです


がんの消滅――天才医師が挑む光免疫療法』(著:芹澤健介、監修:小林久隆/新潮社)

なぜ「天才」なのか
どこが「ノーベル賞級」なのか


原理はシンプル――だがその画期的機構から「第5のがん治療法」と言われ、
世界に先駆け日本で初承認された「光免疫療法」。がん細胞だけを狙い撃ち
し、理論上、「9割のがんに効く」とされる。数々の研究者たちが「エレガ
ント」と賞賛し、楽天創業者・三木谷浩史を「おもしろくねえほど簡単だな」
と唸らせた「ノーベル賞級」の発見はなぜ、どのように生まれたのか。
「情熱大陸」も「ガイアの夜明け」も取り上げた天才医師に5年間密着、数
十時間のインタビューから浮かび上がる挫折と苦闘、医学と人間のドラマ。