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著名な女優でありながら、自分のことは自分でするのが当たり前、どこへでも身一つで行けると言い切る加賀まりこさん。その自立心と行動力は、幼いころから変わっていないそうです――(撮影=鍋島徳恭 構成=小西恵美子)
世間体は何の意味もない
「加賀さんらしい」って、よく言われるんだけど、私にはどういうことか、わかってないから、それに囚われることもない。だからいいんでしょうね。
世間体なんてものは何の意味もない、というのが母の教え。しかも母だけじゃなくて、父も兄も姉もそうで、それがずっと私の根底にあるの。
母は明治生まれの女性としては珍しいけど、世間体を気にしなかった。姉はサルトルとボーヴォワールじゃないけど、入籍しない関係でずっと何十年もパートナーと暮らしてたし。私がシングルマザーで子どもを産むって言った時だって、「あなたがいいようにしなさい」と言った。母が近所に買い物に行った時には、白い目で見られたかもしれないんだけど。その子は残念ながら、生まれて7時間で心臓が止まっちゃった。
父は靴が汚れてるとみっともないってよく言ってた(笑)。すごくおしゃれで、休みの日に全部靴出して、自分で磨いていた。ついでに私の靴も磨いてくれて。うるさいのは靴だけだった。(笑)
私は自分を律して生きてる人には憧れる、篠田桃紅さんとか。一本筋が通っていて、頑張ってるんだけど、力が入ってない感じがいいわね。それ、母のイメージなの。一人で何でもやって、人に甘えないところが。甘えないっていうのも母から教わったのね。
子どもの頃から、母に抱きしめられたことが1回もないの。私が甘えようとすると、避けられちゃう。(笑)
だからか、私、一人で行動することが8歳の時から平気で、一人前にタクシー乗れましたね。神田から神楽坂に引っ越して、2駅なんだけど電車通学になって、飯田橋から御茶ノ水までランドセル背負って通ってたの。帰りに神保町の古本屋に寄ると、ついつい夕方まで立ち読みしちゃう(笑)。帰るのが遅くなると、100円握ってタクシーに乗る。家の近くでメーターがカチャッと上がる場所を知ってるから、上がる寸前で「はい、降ります」って言って、70円払って降りることも編み出せる自立した子だった。(笑)
親も歳いってたし、姉も兄も一回り以上、歳が離れてるので、誰も私を相手にしてくれないし、気にもしてないから一人で動いてたね。それでも寂しいとか思わなかった。よそんちの家族がベタベタしてるのを見て、気持ち悪いと思ったくらいだから、羨ましいなんて気持ちまったくなかった。
私はそういう距離感が、今に至るまで好き。今、兄と兄嫁とパートナーと私で二世帯住宅にいるけど、まぁ、それぞれがどこに行こうとも、何時にどうしようとも、用がないかぎり知らない。そういう風にずっと過ごしてきたので、何かにこだわるとか執着するってことは、まずない。