この季節になると、思い出す出会いがある

もちろんそんな現場ばかりではなく、ちゃんとしたところもあったが、だんだんぞんざいに扱われることに慣れ、感覚が麻痺していく。1日を終えると何の気力も体力も残っていなくて、布団に倒れ込み、泥のように眠る。ただ心を無にしてやり過ごすだけの毎日だった。

写真提供◎AC

派遣にいい思い出は少ないのだが、この季節になると、思い出す出会いがある。大学生になったばかりの私は、人生で初めて単発の派遣というものをやった。クリスマスイブの1日だけスーパーにいって、予約されたクリスマスケーキをバックヤードからとってくるという仕事だった。

朝一番で現場の責任者に挨拶にいくのが派遣のマニュアルなので、その日も売り場の責任者に「今日お世話になります。よろしくお願いいたします」と挨拶したが、開店前は慌ただしく、無言で会釈されただけだった。

バックヤードには大量のクリスマスケーキがあり、ひとつひとつに細い紙が貼り付けられている。そこに予約したお客様の情報が書いてあり、店員から言われたものをレジまで運ぶ。クリスマスイブの夕方はとてもあわただしく、次々と客がケーキの引き取りにやってくる。

レジも混み合っているので、現場はピリついていて、店員もイライラし始める。「Aさんの持ってきて」と言われて持っていくと、「違う、Bさん!!」と言われ、また持っていくと、「いや、Aさんだよ。さっきので合ってたのにあなたが間違えたんでしょ?!」とキレられる。