PTSD
PTSDは、強烈なショック体験や精神的ストレスにより引き起こされる障害です。性被害だけでなく、戦争や震災、台風や火事、事故で重傷を負う、非業の死を目撃する……などといった、日常とはかけ離れた命の危険を感じるような状況に遭遇した後に起こります。
代表的な症状に不眠や集中困難、恐怖を感じたときの記憶や感覚が突然よみがえる「フラッシュバック」などがあります。
また、安全な場所にいても常に緊張して神経が過剰に研ぎ澄まされてしまい、平常時なら気にならないようなことが気になって、イライラして落ち着きがない「過覚醒」に陥るのも代表的な症状です。
子どもの頃に性被害を受けた場合、PTSDは10〜20年という年月を経て発症するケースも珍しくありません。
解離性障害の「解離」とは、「解いて離れる」と書くように、自分の感覚や感情・知覚・アイデンティティが切り離されるという現象です。つらい体験から自分を守るため、性被害者は一時的に記憶をなくしたり、外から自分の体を見ているような感覚になったりすることがあるのです。
現実にはありえないような不思議なものが見える、声が聞こえる、周りの景色がすべてモノクロにしか認識できない、香りを感じられなくなる……などのさまざまな症状が出る人もいます。
いわゆる多重人格(解離性同一性障害)とも呼ばれるように、複数の人格を持つこともあります。
さらに過去の性被害によるトラウマが原因で、不特定多数との性的逸脱行為など、さまざまな問題行動を引き起こすことも珍しくありません。
とくにこれは女性に多いのですが、性被害にあったのちに「自分には価値がない」「こんな私は汚らしい」と自暴自棄になり、自傷行為的に不特定多数と肉体関係を持ってしまうパターンです。
男性でも、子どもの頃の性的虐待によって性依存症に陥ることもあります。
私が監修として携わっている漫画『セックス依存症になりました。』(集英社)の作者である津島隆太さんは、幼少期に父親から性的虐待を受けたことから性に対する認知が歪み、成人になってからも、強迫的にセックスにのめりこむセックス依存症になった自身の経験を作品の題材にしています。
※本稿は、『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(著:斉藤章佳/幻冬舎新書)
子どもへの性加害は、心身に深い傷を残す卑劣な行為だ。
なかでも問題なのが、顔見知りやSNS上にいる“普通の大人”が子どもと信頼関係を築き、優位な立場を利用して性的な接触をする性的グルーミング(性的懐柔)である。
「かわいいね」「君は特別だ」などと言葉巧みに近づく性的グルーミングでは、子ども本人が性暴力だと思わず、周囲も気づきにくいため、被害はより深刻になる。
加害者は何を考え、どんな手口で迫るのか。子どもの異変やSOSをいかに察知するか。性犯罪者治療の専門家が、子どもを守るために大人や社会がすべきことを提言。