実資を飛び越えた者
しかしその一方で、実資を飛び越える者もいる。長和2年(1013)に権大納言になった道長の長男・藤原頼通は、同6年(1017)に内大臣になり、実資が右大臣になったのと同年に左大臣に昇進する。
時にまだ30歳、内大臣昇進と同じ年に摂政、2年後に関白の宣下を受けているので、まさに父・道長の後継者としてのスピード出世だった。
治安元年当時かつての道長の上司の公任は55歳、3年後に権大納言を辞任している。実資の後任の大納言は斉信で、同年行成は50歳、前年にようやく権大納言になっている。そして源俊賢は62歳、2年前に権大納言を辞任して、ほとんど仕事らしい仕事がなくなっていた治部卿に転出していた。
アラカンとなった四納言に、そして実資にも、道長親子の壁は厚く立ちはだかっていたわけだ。一条朝を飾った「四納言」も、その晩年になって、摂政や関白や大臣を務めた父や祖父の栄光がすでに過去のものとなっていたことを改めて気付かされたことだろう。
『謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年』(著:榎村寛之/中公新書)
平安遷都(794年)に始まる200年は激変の時代だった。律令国家は大きな政府から小さな政府へと変わり、豊かになった。その富はどこへ行ったのか? 奈良時代宮廷を支えた女官たちはどこへ行ったのか? 新しく生まれた摂関家とはなにか? 桓武天皇・在原業平・菅原道真・藤原基経らの超個性的メンバー、斎宮女御・中宮定子・紫式部ら綺羅星の女性たちが織り成すドラマとは? 「この国のかたち」を決めた平安前期のすべてが明かされる。