沿線文化

また、西武グループの歴史や、西武鉄道沿線の地域性をつくるうえで、義明と清二の関係性や、政治的考え方の違いというのが大きく影響していると考えてよい。

清二は日本共産党の国際派・所感派の対立のさなかに国際派に属し、除名されたものの、「辻井喬(つじいたかし)」というペンネームで詩人として活躍。小説も書き、文化人としても知られた。経済人として、さまざまな企業経営者や政治家とも交流した。

その価値観が「無印良品」を生み、セゾンカードを西武百貨店や西友のハウスカードの枠に収まらないカードに育て上げた。もとのセゾングループは崩壊したものの、セゾンの精神は旧セゾン系企業には生き続けている。西武鉄道沿線では、相容れない義明の家父長主義と、清二の左翼的精神が矛盾しつつも生き続けているというのが特性としてあるだろう。

なお堤義明はすでにグループを出、みずほ銀行出身の後藤高志が経営を立て直し、西武グループは現在のような状態にある。

このような経緯で、西武鉄道沿線は、東京の城南地域の私鉄各線のように、ブランド力があり、企業グループ全体で統一したサービスを提供しにくかった。そのため「東京西側」の私鉄のなかにおいて、西武鉄道は東急グループほどのブランド力を備えられなかったと言える。

その一方で、堤義明のようなレジャー中心の文化か、堤清二のような文学や美術・思想を中心としたハイカルチャーか、というものが、西武沿線には存在する。さまざまな人が西武鉄道沿線には住んでおり、沿線自体の多様性が確保され、各沿線の平均的なものとなるような沿線文化が西武にはあるのだろう。裕福な人もそうではない人も、革新的な人も保守的な人もいるのが、西武鉄道沿線である。

※本稿は、『関東の私鉄沿線格差: 東急 東武 小田急 京王 西武 京急 京成 相鉄』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。


関東の私鉄沿線格差: 東急 東武 小田急 京王 西武 京急 京成 相鉄』(著:小林拓矢/河出書房新社)

関東8大私鉄の「沿線力」を徹底比較。住みやすさ、行政サービス、将来性、ブランド力、天災への強さなど、さまざまな視点から、知っているようで知らない「真の評価」を明らかにする!