憮然とした表情になった母親
こうした説明をしながら、ぼくは母親に薬を飲むことを提案した。
「便秘というのは病気ではなく体質みたいなものです。人間の体質を変えるって大変なんです。時間もかかります。だけど下剤を毎日飲んで、毎日うんちが出るようになると、うんちが出ることが新しい体質になっていくんです」
そこまで話すと母親は憮然とした表情になった。
「薬に頼るんですか!?」
「……薬を利用するんです」
「食べ物とか、ほかに方法はないんですか?」
「食事で解決できれば、そういう方法を提案しますよ。だけどそれはうまくいきません。医学的データもあります」
「もう、いいです」
「……では、下剤はやめて、整腸剤を飲んで少し様子をみますか」
結局この家族は、それきりクリニックに来ていない。あの子の便秘はどうなってしまったのだろうか。
医者は医療のプロなのだから、一般の人とは圧倒的に医学知識の差がある。そのギャップを埋めるのが、医師による説明である。ぼくなりに時間をかけて説明しているのだから、少しは信じてみようと思ってもらいたいという気持ちがある。
いろいろな医者がいるのは事実だが、ぼくは金儲けのために医療をやっているのではない。少しでも人の役に立ちたくて開業医を続けているのだ。クレームは本当に傷つくし、根本から人間関係を壊してしまうので、医療が壊れる。
開業以来、ぼくは延べ25万人以上の子どもを診ている。大学病院時代を含めれば、ちょっと数え切れないくらいの患者数だ。その経験に基づいて便秘の治療を提案しているということを分かってもらいたいというのが本音だ。