医療に対する疑心暗鬼

なぜ、ぼくの言葉がすっと患者家族の胸の中に入っていかないのだろう。ぼくは以前に、医師と患者の関係について週刊現代の元編集長と話をしたことがあった。

週刊現代ではよく医療特集を組む。元編集長は、一般の人たちの間には医療に対する疑心暗鬼があるという。

真意を計りかねて「それってどういうことですか?」と尋ねたら、「医者って本当のことを伝えているのか、患者には常に漠然とした疑問があるんです」と返された。

なるほど、そういうことか。ぼくが研修医だった36年前は、がんの患者に告知をすることはなかった。つまり当時医師は患者に対して平然と嘘をついていた。

これは患者家族側のニーズでもあり日本の文化にも関係しているが、医療倫理という観点から考えればやはり日本の医療の暗い歴史と言わざるを得ないだろう。

『開業医の正体――患者、看護師、お金のすべて』(著:松永正訓/中公新書ラクレ)