思い切って部屋を片付けた
私の友人には、3年前に亡くなったご主人の部屋をそのままにして、「クローゼットを開けると、いまも夫の匂いがするのよ」と嬉しそうに話す人がいます。その気持ちも、よくわかりますね。
でも私はこのままだと前に進めないと思ったので、ひとりでささやかな葬儀と納骨を済ませたあと、思い切って夫の部屋を片付けました。ちょうどそのころ書いた『星降る夜に』というドラマに、北村匠海さん演じる遺品整理士が出てくるのですが、依頼したのは取材の際にお世話になった会社です。
早かったですよ。当日はプロフェッショナルが3人来て、2時間ほどできれいさっぱり。3人のなかには査定ができる人もいるので、「このコートは売れます」なんて言って、代金から引いてくれるんです。財布は処分せずによけておいてくれて、「これが入っていましたよ」と渡してくれたのが私の若いころの写真だったりしてね。(笑)
夫の物で残したのは、大工道具くらいでしょうか。寂しいけれど、いまの私に遺品を眺めながらしんみりしている時間はない。納骨したときも、「もう来ないからね、おとうさん」とお墓に声をかけたくらいです。
一周忌にはお経をあげてもらいましたが、夫は「いっぱい思い出してくれ」と言うような人じゃない。「君はまだまだ素敵なことをやって、生きろ」と言うと思います。
執筆が止っていることは知っていたので、夫には「迷惑をかけている」という意識があったのでしょう。医師の余命宣告より3ヵ月も早く逝ったとき、ああ、私のために早く旅立ったんだな、と感じました。