思い切って部屋を片付けた

私の友人には、3年前に亡くなったご主人の部屋をそのままにして、「クローゼットを開けると、いまも夫の匂いがするのよ」と嬉しそうに話す人がいます。その気持ちも、よくわかりますね。

でも私はこのままだと前に進めないと思ったので、ひとりでささやかな葬儀と納骨を済ませたあと、思い切って夫の部屋を片付けました。ちょうどそのころ書いた『星降る夜に』というドラマに、北村匠海さん演じる遺品整理士が出てくるのですが、依頼したのは取材の際にお世話になった会社です。

早かったですよ。当日はプロフェッショナルが3人来て、2時間ほどできれいさっぱり。3人のなかには査定ができる人もいるので、「このコートは売れます」なんて言って、代金から引いてくれるんです。財布は処分せずによけておいてくれて、「これが入っていましたよ」と渡してくれたのが私の若いころの写真だったりしてね。(笑)

夫の物で残したのは、大工道具くらいでしょうか。寂しいけれど、いまの私に遺品を眺めながらしんみりしている時間はない。納骨したときも、「もう来ないからね、おとうさん」とお墓に声をかけたくらいです。

一周忌にはお経をあげてもらいましたが、夫は「いっぱい思い出してくれ」と言うような人じゃない。「君はまだまだ素敵なことをやって、生きろ」と言うと思います。

執筆が止っていることは知っていたので、夫には「迷惑をかけている」という意識があったのでしょう。医師の余命宣告より3ヵ月も早く逝ったとき、ああ、私のために早く旅立ったんだな、と感じました。

<後編につづく

【関連記事】
【後編】大河『光る君へ』脚本家・大石静「執筆中に訪れた夫の死を噛みしめるのは、ドラマを書き上げてから。〈平安時代に関する思い込み〉を変えられたら」
本郷和人『光る君へ』本郷奏多さん演じる花山天皇に入内した井上咲楽さん演じるよし子は、そのまま「夜御殿」で…そもそも「入内」とは何か
マンガ『源氏物語』第1話【桐壷】紫式部は「光る君」を実際にどう描いた?帝と桐壺の間に誕生した美しすぎる源氏の君は元服後、義理の母との道ならぬ恋へ…