「2021年の春ごろにお話をいただき、〈紫式部を描く〉というテーマを聞いて少し悩みました」(撮影:大河内禎)
年が明けてスタートした『光る君へ』。大石静さんが大河ドラマの脚本を手がけるのは、『功名が辻』以来、18年ぶりとなる。わかっていることの少ない紫式部と平安時代をテーマに、大石さんの描く1000年前の物語が幕を開けた(構成=山田真理 撮影=大河内禎)

本名も不明の人物を題材に

『光る君へ』の放送はまだ始まったばかりですが、この仕事にとりかかってすでに2年半が過ぎました。大河ドラマであってもほかのドラマであっても仕事の厳しさに変わりはないですが、なにしろおよそ50話となると、普通の連続ドラマの5クール分、ぶっ通しで書かなければいけません。

いまは29話目を書き上げたところですけど、最終話を書き上げるまでホッとするときは訪れないでしょうね。

2021年の春ごろにお話をいただき、「紫式部を描く」というテーマを聞いて少し悩みました。平安時代に関する知識は、歴史の授業で学んだ程度。私でもピンとくるような有名な人物や事件がまったくないのです。『源氏物語』という題名は有名ですが読んだこともないし、紫式部は本名も生没年も定かではありません。

紫式部の父親は漢学に長けたインテリで、母はどうやら早くに亡くなっている。貧しいながら文化的レベルの高い家庭で育ち、できの悪い弟がいた。父の赴任で越前に行き、京に戻って結婚し、3年に満たない結婚生活で夫と死別。『源氏物語』を書くにあたっては藤原道長のバックアップがあったと思われる。

わかっているのはこのくらいです。なので脚本家として自由に想像を膨らませることができるのではないかと思い、この仕事を受けようと決意しました。