極めるべきは「量」ではなく「価値」
日本では、観光促進ばかりがいまだに追求されている感があります。しかし、アムステルダムやバルセロナの例を見てもわかるとおり、世界の観光先進国では、既にそれがもたらす副作用をどのようにとらえ、その経済効果とどう調整を図るか、を検討する段階へと進んでいるのです。
現在では「オーバーツーリズム」の事例が日本のみならず、世界中で見られています。対策を考えるベースはできているのです。日本もそこから習って、適切な解決策を取れるはずです。
日本政府は毎年、観光客が増えることを見込んでは、その「目標」を発表、インバウンド観光促進のキャンペーンを熱心にやり続けています。
しかしオランダでは2019年に早くも、観光促進の段階を通り越したと判断して、観光局が観光PRを止めました。ほっておいても世界の観光客がアムステルダムにやってくることが分かっているからこそ、今では受け入れ態勢を一番の課題として、観光局の予算を観光管理に重点的に配分しています。2023年には、ニュージーランド観光局も、「観光客の数を減らそう」という方針にシフトしました。
繰り返して述べますと、私たちは「観光反対!」ということは、決していっていません。むしろ観光による「立国」に大賛成ですし、今後もそのための活動を続けていくつもりです。
実際、インバウンドは日本経済を救うパワーを持っています。国際的な潮流を日本の宿や料理に吹き込むことによって、新しいデザインやもてなしも生まれていきます。観光の促進は、日本への理解を国際的に高め、日本文化を救うチャンスであり、プラスの側面は大きいのです。
ただし、それらは適切な「マネージメント」と「コントロール」を行った上でのことだと強調したいのです。前世紀なら「誰でもウェルカム」という姿勢の方が、聞こえはよかったかもしれません。しかし、億単位で観光客が移動する時代には、「量」ではなく「価値」を極めることを最大限に追求するべきなのです。
※本稿は、『観光亡国論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
『観光亡国論』(著:アレックス・カー、清野由美 中公新書ラクレ)
右肩上がりで増加する訪日外国人観光客。京都、富士山をはじめとする観光地へキャパシティを越えた観光客が殺到し、交通や景観、住環境などでトラブルが続発する状況になっている。本書は作家で古民家再生をプロデュースするアレックス・カー氏とジャーナリストの清野由美氏が、世界の事例を盛り込みながら、建設的な解決策を検討する一冊。真の観光立国を果たすべく、オーバーツーリズムから生じる問題を克服せよ!