子どもをスケープゴートにする家庭
家庭内に何らかの問題や不和が起きた際、抵抗する術を持たない子どもをスケープゴートにする親は少なくない。「スケープゴート」とは、ある集団の秩序を保つために特定の人物を悪者に仕立てあげ、攻撃を正当化する現象のことである。学生時代、クラス内でいじめのターゲットが定期的に入れ変わるのを見た人も多いだろう。あれと同じことが、家庭内という密室で行われる。
私は、先に述べた美輝ちゃんと同じく3人きょうだいの末っ子として生まれた。姉と兄は両親から“普通に”愛されていた。テストで80点を取ろうものなら、食堂の壁に答案用紙を貼り出し、この上ない誉れを受ける。スポーツの大会においても、「参加したこと」「がんばったこと」を褒められる2人は、結果に頓着しないぶん緊張に苛まれることがなく、いつものびのびとしていた。
一方私は、95点でも殴られ、数時間に及ぶ罵声を浴びせられた。
「どうしてあと5点が取れないの?!」
そう叫ぶ母の顔は、きょうだいの80点のテストを褒める人物とはまるで違う人のようだた。ぎゅっと吊り上がった目元と、歪んだ唇。母はいつも真っ赤な口紅を塗っていて、怒るたびにその赤が目に焼き付いて不快だった。定規で打たれ、平手で殴られ、父の拳が飛んでくる。それらの折檻は往々にして、きょうだいのいない時間・場所で行われた。