母が強いたダブルバインド
単純な折檻よりも私の心を砕いたのは、母によるダブルバインドであった。ダブルバインドとは、「二重拘束」を意味する。職場などで「わからないことがあれば聞いてね」と言うくせに、いざ質問すると「自分で考えなさい」と叱責する上司はさして珍しくないだろう。これが、ダブルバインドである。
母は私に100点の結果を求めたが、いざ100点を取ると「子どもらしくない」と突き放した。また、常に「状況を読め」と強いるのに、「周りの空気ばかり読んで気味が悪い」と言い放った。子どもらしく天真爛漫であることを許されるのは姉と兄のみで、私はどちらも許されなかった。子どもらしくあっても、完璧な結果を出しても、母は私を忌み嫌った。二重に拘束された心は行き場を失い、やがて私は「何をしてもダメなんだ」と思うようになった。
子どもだった私は、それでも母に愛されることを望んだ。時折気紛れに見せる優しさにすがり、それこそが母の本心なのだと信じることで己を保っていた。でも、そんなものはただの虚像だった。父が私に性的虐待を強いていることに気づきながらも、母は私を助けてはくれなかった。それどころか私への憎しみを募らせていく彼女の姿は、母ではなくただの“女”だった。
姉もいたのに、父がなぜ私だけを性的欲求の捌け口に選んだのかはわからない。ただ、私を虐げることで彼らの嗜虐心は満たされ、その上でしか成り立たない形があったのだろう。
“わたし”という人間をゴミ箱にして、日頃の鬱憤をすべて吐き出す。そうすることでバランスを保っていた我が家は、外側からは「ごく一般的な家庭」に見えていたはずだ。
なぜ、私だったのか。その明確な答えがわからないまま、私は混乱と恐怖の只中で右往左往していた。ただ一つだけはっきりいえるのは、両親がさまざまな問題を抱えていたことである。