検事時代、権力濫用や政治の腐敗を摘発してきた堀田さん。ロッキード事件捜査のため駐在した、ロサンゼルス総領事館の執務室にて(写真提供◎堀田さん)

 医師からは、左目の視力は失われたまま戻ることはないと言われてしまって。右目で大きな文字は読めるのですが、漢字の意味がわからない。

いままでのように歩いてトイレに行くことも、自分で起き上がることもできない。ついさっきのことを思い出せず、記憶力も思考力もあやしくなって、それは心細くなりました。

明子 コロナ下で家族も面会できないなか、夫が看護師の方に手伝ってもらい電話をかけてきたんです。「病院にいるのはイヤだ。窓から飛び降りて死にたくなるから家に帰りたい」などと駄々をこねて――。

 申し訳なかったと思いますが、そのときはそういう状態だったんですね。私はいままでいくつか病気を患っています。検事としてロッキード事件を担当したときは、審理が山場を越えてから胃潰瘍の手術をしました。たぶんストレスの影響でしょう。

57歳で早期退職して、福祉の活動を始めてからも、狭心症でバイパスの手術をしました。そのたびに「頑張って治して復帰するぞ」という気持ちでしたが、今回ばかりはどうしていいかわからなくてね。この先、生きていても何ができるんだろうかと――。

明子 それで私は病院を訪れて、医師と相談しました。夫の体の支え方や、薬の管理、部屋を片づけて歩行を安全にすることなど、自宅でサポートする方法を教えていただいて。

退院したのが12月30日。年末年始は病院も休診なので、もし何かあったらどうしようとハラハラしましたが、夫はほっとしたようでした。

力 抱えていた仕事は職場の職員にお願いして。とにかく自宅に戻りました。