涼しい顔で水に浸かる猛者

サウナの一角に積まれた熱い石に、アロマオイルを含んだ水がかかる。ジュワーッと真っ白な蒸気が立ち上り、ラベンダーの香りが室内に広がった。(このように、蒸気によって体感温度と湿度を高めて、心地よく汗をかくのがフィンランド発祥の「ロウリュ」と呼ばれる入浴法。なお、タオルを使ったパフォーマンスを行うアウフグースはドイツ式である)

すると彼女はバスタオルをぐるぐる回し、広いサウナ室に蒸気を行き渡らせた。そして最上段の端の客の前に立って、そこからひとりひとり、2回ずつバスタオルであおぐ。

スタッフ 「次の方、失礼します」

 「お願いします!」

バサッ、バサッ。

 「ありがとうございました!」

まるで禅寺で座禅をした時に警策で打たれるような感じだ。彼女がタオルを振るたび、遠くのほうから肌にパチッと強い刺激を受ける。熱気だ。同時に、室内に湿気が広がる。

いよいよ私の番になった。

スタッフ 「失礼します」

 「お、お願いします」

バサッ、バサッ。ものすごい熱気で体の表面がパッと熱くなったが、それはすぐにおさまり、スーッとして心地がいい。しまった、うっとりしていて「ありがとうございます」と言うのを忘れた……。

35人すべてを回り終えたところで、彼女はもう一度サウナストーブから上がる蒸気を大きくあおぎ、タオルを畳んで「終わります」と頭を下げた。すると誰からともなくパチパチパチ……と拍手が起こり、「ありがとうございました」の声。

ただじっと座っているより退屈しないし、確かにイベントっぽくて気分がアガる。これは病みつきになりそうだ。

アウフグースが終わるとみな、次々に水風呂へ向かう。私も真似をして、体の汗を流してから浴槽に右、左と足を入れると……冷たい! すこーしずつ体を水の中に沈めていくが、腰まで浸かったところで限界。30秒もしないうちに出てしまった。

ほかの人たちはそれこそ“涼しい顔”で水に浸かっている。見れば、H嬢も平気な顔。こんな冷たい水の中にどうして入っていられるのか。寒くはないんだろうか。聞くと、彼女も最初は水風呂が苦手だったそうだ。

「でも慣れると、体に見えない膜が張ったようになって、水の中で動かないかぎり冷たさを感じなくなるんです」

なるほど。確かに水風呂を出てからむしろ体は温かいまま。不思議だ。