現実と、夢の中の「現実」

では、目覚めている時の現実と、夢の中の「現実」はどこで区別したらよいのか。現実と「現実」、それぞれの内容では区別できない。「現実」がいかに馬鹿げていようと、「現実」の中にいる人物には現実なのだ。

この区別は、「現実」から目覚めるかどうか、それだけにかかっている。よく「夢が破れる」と言うが、それは違う。「現実」が破れて夢になるのである。

『苦しくて切ないすべての人たちへ』(著:南直哉/新潮社)

したがって、今度は逆に、大災害や突然の戦争などで、日常生活という現実の方がいきなり破壊されると、人は茫然として「悪夢を見ているようだ」と言うのである。また、認知症が次第に進むと、当人は「夢と現実の区別がつかない」と言い出すことがあるのだ。

ということは、現実と「現実」、すなわち現実と夢の違いは、そう当たり前なことではない。夢がイメージなら、我々の現実も実はイメージである。我々は自分の身体をメディアにして、外界を五感などの感覚器官を通じて認識しているに過ぎない。認識しているのは、ナマの外界そのものではなく、そのイメージを現実として構成しているのだ。