今はまだ人生のリハビリ中

こんな緩い働き方で、いまの部屋の家賃を払い続けられるか、将来が不安だと紀久子さんは零しました。とはいえ、65歳になれば年金がフルでもらえます。モトザワの簡単な試算では、年金も加えれば住居費は総収入の3分の1以下に抑えられそうです。「じゃ、大丈夫かしらね?」。ぱっと顔を輝かせました。紀久子さんは楽天家です。

そもそも、がんが寛解してまだ4年、無理をしないほうがいいんです。いま紀久子さんは、おそらく人生で初めて、日々をゆったり過ごしています。せっかくなら、このペースを楽しんだほうがいいように、モトザワは思います。将来、大きな仕事を請け負ったりして、また忙しくなっちゃうかもしれないんですから。

いまは朝、昼、晩と、ちゃんと3食、紀久子さんが作ります。社長時代はお手伝いさんに来てもらい、家事は全くしていませんでした。料理はしたことがなかった紀久子さんですが、健康管理のために作り始めたところ、ハマってしまいまいた。調理器具もそろえ、レシピ通りにちゃんと作ります。我ながら感動するほどのおいしさだとか。「おいしい~!って思う。自分で作るのがおいしいから、もう全然、外食しなくなって」。立食パーティーなどのイベントを主宰する時は、紀久子さんが作った料理を持ち込むこともあるそうです。

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「こんな60代を迎えるとは、思ってもなかった。会社をずっと経営するつもりだったから。でも会社を続けてたら、何歳になっても気を張って、ずっと、仕事のお金のことを考えなくちゃいけなかったでしょうね」

会社を畳まざるを得なかったからこそ、思いのほか早く訪れた「リタイア」生活です。この後は「どうするのかしらねえ」「何がしたいのかしらねえ」と言う紀久子さんですが、相変わらず好奇心は旺盛。人と会って、新しいことを知るのは大好き。昨年から、昔からの知り合いに頼まれて、新規事業立ち上げの手伝いを始めました。報酬がどのくらいになるかは未定ですが、その新しい仕事について語る時、とても生き生きと楽しそうです。病後でもあるし、今はまだ人生のリハビリ中でしょうが、紀久子さんはまだあと、ひと花、ふた花咲かせるのではないかしら。そうモトザワには思えます。