完全なる闇落ち

自分だけは良心的、みたいな顔をして、中途半端な正義感で周りを最悪の状況に引きずり込むのだ。さらに、悠子がいなくなれば育てる母親がいなくなることを危惧した基が、母親として子育てするよう理紀を説得してほしいと悠子に頼む。悠子は理紀を説得するが、元々産んだらいなくなることが条件だったのだから、当然理紀は反発する。

それに対し、悠子は複数の人と関係を持つという契約違反をした理紀に、基が出産の追加報酬を払うと思うか? と言い出す。母親として子育てするという条件を飲めば、約束通り報酬は支払われるのではないか、というのだ。半ば脅しのような発言をしだした悠子。完全なる闇落ちだ。

しかも、子どもが生まれると、やっぱり育てたくなったから基と復縁する! と言い出すのだ。自分が育てるから産んで→やっぱり育てない!→やっぱり育てたい! とものすごい変遷だ。

 

はたから見ていると、あまりに身勝手で自己中心的。周りを振り回すのもいい加減にしろ、と言いたくもなる。でも、この物語のすごいところは、こういう人間の感情の動きも、実際ありうるものかもしれない、と思わせるところだ。生身の人間の感情とは、きっと私たちが思う以上にわかりにくく、移ろいやすく、やっかいなものなのではないか。