自分の感覚について、改めて考えさせられた

悠子もたいがいだが、理紀もまた相当やっかいなキャラクターだ。先ほども触れたが、代理母の契約を結んだにも関わらず、複数の男性と関係を結ぶ。ほかにも、契約を破って飛行機で帰省したり、結婚指輪をして地元の人と会ったり、お酒を飲んだりと、やりたい放題だ。

その姿は「愚か」というほかない。目先のことしか考えられず、あまりに短絡的だ。でも、理紀というキャラクターを通して、自分の感覚について、改めて考えさせられた。

『死ねない理由』表紙(著:ヒオカ/中央公論新社)
『死ねない理由』(著:ヒオカ/中央公論新社)

SNSでも、理紀の行動への批判は多かった。「愚かだ」という声もあった。でも、よく考えてみると、理紀へ向けられる視線は、しばしば社会的弱者に向けられるそれと重なる部分があるように思えてきた。

「良識的な判断」というのは、本人の努力だけでできるものと思われがちだが、そうではない。積み重ねてきた知識、受けてきた教育、忍耐や他者への配慮を育む環境ーー。そういったものが合わさって、行動に繋がる。

あらゆるものが乏しかったがゆえに、目先の欲望や利益だけを見て動いてしまう。それが「持った側」からすれば「愚かだ」と映るだろう。