女性がいかに不安定で危険な立場に置かれるか
もちろん理紀の行動は褒められたものではないが、そんなに簡単に断罪できるものなのか、と自問自答する自分もいる。
この物語がフェアだな、と思うのは、殊に「生殖」という営みにおいて、女性がいかに不安定で危険な立場に置かれるか、を描き出すところだ。女性の身体を買う側、また売買を斡旋する側は、「本人が望んだのだから」とか、「人助けだ」とか、美辞麗句を並べて、正当化しようとする。でも、悠子の友人で春画画家のりりこは、「搾取だ」と断罪する。
理紀は双子を妊娠、壮絶なつわり悩まされた後、予定日より前に破水し、出産は緊急帝王切開になってしまう。出産を経験したこともない男性が、「自然分娩より楽だろう」などとのたまうが、実態は壮絶極まりない。理紀は術後激しい痛みと高熱にうなされる。腹を切り開くのだから当然、しばらくの期間強い痛みに悩まされる。
一方父親である基は颯爽と病院に現れる。男だから当たり前なのだが、その対比に目眩がする。男は一切身体的負担を負わなくていい。なぜ女性だけ、生命をも危険にさらさなければならないのか。
理紀は、基と悠子にもこの痛みをわかってほしい、ふたりにもお腹を切って欲しいくらいだ、と言う。この理紀の気持ち、よくわかる気がする。
理紀は帝王切開の傷を負うことになった。「自分の子なら勲章、他人の子なら烙印」。今後恋人が出来たとして、その傷をなんと説明するのか。理紀はその傷を一生背負うことになる。