「ダニー・ボーイ」「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」「テネシーワルツ」……。ジャズの名曲をおさめたアルバムが発売されるや、その歌声に魅了される人が続出し、コンサートは満員となる。齋藤悌子さん、88歳。日本最高齢のジャズ・シンガーだ。彼女の人生の物語を聞いた(構成:篠藤ゆり 撮影:木村直軌)
故郷・沖縄を遠く離れて
毎日のように顔を合わせていたバンドマスターは、仕事では厳しかったですが、ラブレターをたくさん送ってくれました。25歳の時、彼と結婚することに。彼は千葉の出身でしたので、内地から親御さんや身内の方が来てくれました。
それから4、5年経ち、夫の実家から「そろそろ帰ってきてくれないか」と連絡があり、千葉に引っ越すことになります。私にしてみれば、生まれて初めて沖縄を出て、本土に渡るわけです。
夫もそんな私を気遣ってくれたんでしょうね。まず鹿児島に船で渡り、そこでスポーツカーを買って、本土縦断の旅を始めました。見るものすべてが沖縄と違うので、珍しくてずっとキョロキョロ。
でも、関東地方が近づくにつれて、私は無口になっていきました。千葉では舅姑、小姑2人と同居。歌以外何もできない女に《嫁》が務まるだろうかと、不安になったんです。