あこがれの若隆景との初対戦
優勝決定戦となり、本割ではなかった照ノ富士の真っ赤な仁王顔が出た。隆の勝も眉を上げて最高に厳しい顔をしている。
隆の勝はもろ差しになったが、最後は実況の佐藤洋之アナウンサーが「横綱がつかまえたあ、かいなを返して、寄り切りい~」と美声で叫び、照ノ富士の勝利を伝えた。花道を帰る照ノ富士の後ろで、付け人が泣いていた。
私も泣いた。怪我と病気で大関から序二段まで陥落し、地獄を見てから這い上がって横綱になった照ノ富士の10回目の優勝。数々の熱戦が繰り広げられ、力士たちの涙と喜びの歴史がつまった愛知県体育館の最後にふさわしい優勝だった。
3賞は、殊勲賞は大の里(2回目)、敢闘賞は隆の勝(3回目)が獲得。力士がもらって一番嬉しいと言われる技能賞は、小結・平戸海が初めて受賞した。
今場所は、膝の大怪我から幕下まで陥落し、幕内に戻ってきた前頭14枚目・若隆景が技能相撲を取っていて、技能賞を獲得できなかったのが残念だった。
今場所、私が楽しみにしていたのが前頭11枚目・一山本と若隆景との対戦だった。一山本は若隆景の大ファンで若隆景の様々なグッズを集めて、YouTubeで紹介している。
一山本はあこがれの若隆景との初対戦であがってしまい、うまく相撲が取れないのではないかと心配した。12日目、一山本は上手投げで若隆景に堂々と勝った。一山本は土俵の上ではファン熱を抑え、冷静に闘える力士だと尊敬した。しかし、私は7月26日の『東京中日スポーツ』の大相撲欄を読んで、爆笑した。若隆景に勝った一山本の談話が掲載されていて、「どうしても懸賞が欲しかった。使わずに取っておく。他のファンは持っていないでしょう」とあった。一山本は力士の特権を使い、素晴らしものを手に入れたのである。