『源氏物語』の道化役
貴族社会は、礼儀作法や約束事によって成り立つ社会です。それが世のなかの調和や、洗煉(せんれん)された身ごなしの基本となりますが、それだけでは生き生きとした感受性や、新鮮な発想は生まれません。
近江の君は、『源氏物語』の道化役です。それだけに、その言葉の一つひとつに、社会規範の生み出す停滞感をうちやぶるパワーがあります。
近江の君は、「今姫君(いまひめぎみ)」「今君(いまぎみ)」「今の御(おん)むすめ」と、語られます。
新たにやってきた者、ニューフェイスなのです。若者や新人には、その社会の常識にとらわれない、心の自由があります。